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広島高等裁判所松江支部 昭和31年(う)10号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

当審訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

検察官並びに被告人の弁護人錦織幸蔵の各控訴の趣意は、それぞれ記録編綴の検事土井義明並びに同弁護人名義の各控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

検察官の控訴趣意第一点について。

訴訟記録を精査するに、原審が所論摘録のような事実を認定した上、これに対する法律の適用に関し所論摘録の如く説示し、以て原判示第一の事実を目し労働基準法第一一八条、第六条に違反する包括一罪であるとなし、又、これと原判示第二の事実中別表のうち三、四、六及び八乃至一三に掲げる職業安定法第六三条第二号に違反する部分とが刑法第五四条第一項前段にいわゆる一箇の行為にして数箇の罪名に触れる場合に該当するものと判断したことは、原判決に徴して明らかである。而して、右労働基準法違反の罪がいわゆる業態犯に属し、その意味において、これと職業安定法違反の罪とが自ら各その犯罪行為の態様を異にするものであることは、検察官所論のとおりであるけれども、それなるが故に両者は純然たる併合罪であるとなす検察官の所論につき、当裁判所としてはこれに左祖し難いところである。刑法第五四条第一項の適用上、犯罪の箇数を定める標準に関し、各種の学説が区々として存するところであるが、この点に関し、当裁判所としては単なる犯罪行為或いは被害法益の箇数のみを以て標準となすべきものではなく、数箇の罪名に該当する犯罪行為全体を通じて認識することができる犯意を包括的に観察し、これを目して単一の犯意に出でたものであると断じ得るか否を以て右標準となすべきものであると解する。然らば、本件のような職業安定法違反の行為が、同時に本件労働基準法違反の罪にも該るということは原則としてあり得ないとの検察官の所論は、当然にはこれを是認することができない。右労働基準法違反の罪がいわゆる業態犯に属し、原則として業としてなされたものと認めることができる程度に反覆されることが予想されて居り、その意味において、これと右職業安定法違反の罪とが自ら各その犯罪行為の態様を異にするものであることは、前叙のとおりであるが、それは一に犯罪構成要件の各一部分を異にする当然の結果であつて、本来、犯罪行為それ自体は、いずれの罪名に該当する場合においても、単なる一箇の行為として評価すべきものであつて、この点に関する原審の判断は、まことに相当であるというべきである。又、いわゆる公訴不可分の原則或いは一事不再理の原則の適用上、検察官が所論において掲げるような不都合な結果が生ずることは、容易にこれを想像することができるけれども、これは自ら別個の事柄に属する。原判決には、検察官が所論においていうが如き違法の廉があるということはできないから、論旨は採用の限りでない。

検察官の控訴趣意第二点について。

所論に鑑み、訴訟記録及び原裁判所が取調べた証拠を精査し、本件各犯罪の動機、態様、罪質、同種の犯行を反覆して累行した事跡、前科の関係等諸般の事情を考量するとき、原審の刑が軽きに過ぎその量刑が不当であることは、正に検察官所論のとおりであるから、原判決は、この点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

弁護人の控訴趣意について。

所論は結局、原審の刑が酷に失し、その量刑が不当であるというに在るが、原審の量刑に関しては、検察官の論旨理由あり、結局原判決を破棄しなければならないことは、前段において説示したとおりであるから、特に主文において、被告人の控訴を棄却する旨の言渡をなさない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条により、原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書によつて、本件につき、更に次のとおり判決する。原審が認定した事実に法律を適用するに、被告人の原判旨所為中第一の点は労働基準法第一一八条、六条に、第二の点はいずれも職業安定法第六三条第二号にそれぞれ該当するところ、(なお原判決別表のうち三、四、八及び一一に掲げる部分については刑法第六〇条をも適用する)判示第一の労働基準法違反の罪と判示第二の各職業安定法違反の罪中右別表のうち三、四、六及び八乃至一三に掲げる部分はいずれも刑法第五四条第一項前段にいわゆる一箇の行為にして数箇の罪名に触れる場合に該当するから、同法第一〇条により、最も重いと認めるべき右別表のうち八に該当する職業安定法違反の罪の刑を以て処断すべく、これと別表爾余の各職業安定法違反の罪とは同法第四五条前段併合罪の関係に在るから、いずれも所定刑中懲役刑を選択した上、同法第四七条、第一〇条により、最も重いと認めるべき右別表のうち八に該当する職業安定法違反の罪の刑に法定の加重をなし、更に、同法第六六条、第六八条第三号によつて酌量減軽をなした刑期範囲内において、被告人を懲役六月に処し、なお、当審訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項を適用し、被告人に対しその負担を命ずべきものとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 組原政男 黒川四海)

〈以下省略〉

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